Atlanterhavsparken Ålesund (by Kenneth Enstad)
Illustrations by Igor Morski on Behance
シャロン・モアレムという新進気鋭の進化医学研究者が書いた「迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか」の第2章 糖尿病は氷河期の生き残り?です。今回は、バイオス医科学研究所の健康食品「抗糖露アディアS」」とも関係する話題なので、少し綿密にご紹介いたします。
食物の炭化水素が分解されてエネルギー源であるブドウ糖ができます。そして、ブドウ糖はすい臓で作られるインスリンというホルモンによって、肝臓、筋肉、脂肪の細胞内に貯蔵されます。ところが、インスリンがブドウ糖をうまく貯蔵できなくなると、尿や血液中の糖分が高濃度になり、糖尿病というわけです。血糖値の高い状態が続くと、脱水症状、昏睡状態、死にいたる場合があります。また、糖尿病は失明、心臓病をはじめとして、合併症も大きな問題となります。
糖尿病には、1型、2型、それに妊娠糖尿病というのがあります。1型では、すい臓でインスリンを作っている細胞が免疫系に攻撃され、インスリンが生産されない。2型の場合は、インスリンは生産されているが、その生産量が少ないなどの理由によりインスリンの効きが足りない状態にあります。妊娠糖尿病は、妊娠中の女性に起こる一時的な糖尿病です。糖尿病の原因は、まだ、完全には解明されていないが、遺伝、感染、食事、環境などの要因が複雑に絡み合っているようです。
1型糖尿病は、北ヨーロッパの人に圧倒的に多く、遺伝的要因が大きくなっています。ヘモクロマトーシスのように1型糖尿病に関係する遺伝子が自然淘汰の中で、北ヨーロッパの人の間で選ばれたと考えられます。これに対して、2型は遺伝的要因とも関係していますが、生活習慣とも関係していて、2型の糖尿病になる人の85%は肥満であり、あらゆる人口集団で増加しています。世界保健機関(WHO)によると、世界全体の糖尿病患者は、現在の1億7100万人から、2030年までに2倍に増加するとのことです。
ここで、いったん、話は氷河期に飛びます。最近の研究によると、従来は数万年単位でしか起こらないと考えられていた気候変動の周期は、数十年単位で起こりうるといういことです。氷河期の襲来や退却がこの周期で起こりうるし、実際に起こったのです。アフリカから北に移動した人類は、氷河期が去った後、北ヨーロッパで温暖な気候を享受していましたが、その後、急に変平均気温が10年で16度近く下がった時期があり、壊滅的な被害が出ました。北ヨーロッパの人口も大きく減少しました。ということで、ペストに対抗するためにヘモクロマトーシスの遺伝子を選んだように、人類は寒さに対抗できる特殊な遺伝子を獲得したのではないか、ということが考えられます。
そうすると、寒さに対する人間の生理学はどうなっているか、を考察してみると、寒さに震えるということに加えて、体は寒さを感知すると毛細血管を閉じにかかります。そうすると、血液は胴体に集まります。生命維持に必要な臓器を冷やさないように血液で温浴させているのです。手足を危険にさらすより、胴体を守るという戦略です(ノルウェーやイヌイットの猟師であれば、手足と胴体の両方を守るために血管を断続的に収縮・拡張を行えるようです。また、極寒地に住む人には褐色脂肪細胞という特殊な発熱組織が存在しているとのことです)。もう一つの重要な生理的反応は、小用を催しやすくなるということです。その原理は未解決ながら有力な理論が。それを説明するためにアイスワインの話を。
この芳醇な香の高級ワインは、初霜が降ってから収穫されたぶどうで作られますが、それは、ぶどうの寒い温度での自己防御反応に由来しています。すなわち、ぶどうは、寒い気温になると、氷の結晶になる水分を放出し、かつ、不凍剤として機能する糖の濃度を高めることによって、氷の結晶がぶどうの薄皮を傷つけ、「凍死」することから自己防御しているのです。ということで、寒い時の小用も自己防御反応ということになります。そして、高い糖分の濃度~糖尿病も、寒さへの自己防御?さらにアメリカアカガエルの冬眠について考察も、これを裏付け材料として登場します。
カエルは気温が氷点下に近づくのを感じると、血液と組織の細胞から水分を追い出し腹部に集めます。さらに、肝臓は血液に大量のブドウ糖を送り込み、血糖値を100倍に高めます。カエルは「凍らない砂糖菓子」に変身して、氷の結晶によって傷つくことを避けるのです。
ということで、糖尿病が北ヨーロッパ人の祖先を急激な気温の低下から救ったという説が出てきました。寒さに適応した人々は、低温の中で過すうちに体内でインスリンを作るのをやめることによって、血糖値を高く保ったと考えられるのです。実際、ラットを極寒環境におくと、ラットの体は自ら作り出したインスリンに反応しなくなります(インスリン抵抗性)。さらに寒冷地では、寒い季節ほど糖尿病の診断件数が増加することも、1型糖尿病とみられる小児患者も気温が下がる晩秋に最も多いということも、これに対応していると考えられます。